なぜ2極3スロット/4極3スロットのPMSMではロータの回転方向が逆になるのか?

モータ技術

一年以上前にこんなアンケートをとった。

極スロコンビネーションに対する同期モータの回転原理を、モータに関わる技術者はほとんど知らないらしい。
かく言う私も、ドクターの学生のころ(?)に赤津先生に飲みの場で「3スロモータで2極と4極とでは回転方向が異なるんだよ。なんでか分かるか?」と言われて即答できなかった。当時は自動車用の8極48スロットという素直なモータばかりやっていたせいもある。

コロナが明けていろんな企業技術者、大学研究者に聞いて回ってみたが、モータの設計開発で集中巻の分数スロットモータを扱っている人でも、結構この質問に答えられない人が多かった。このあたりの理論が、物理的直観的な解釈が難しいからかもしれない。

最近も極スロコンビネーションについて考える機会があったので、思考を整理する。

理論

前提は、3スロット、3相平衡・時間高調波なしのモータ。起磁力はステップ上に分布すると仮定。

  • 機械角:θ[0,2π)\theta\in[0,2\pi)
  • 各相コイルの配置(中心位置):θu=0, θv=2π3, θw=4π3\theta_u=0,\ \theta_v=\tfrac{2\pi}{3},\ \theta_w=\tfrac{4\pi}{3}
  • 各相巻線の空間分布(簡易ver):

g(θ)={1,θ<π/3,0,それ以外.gu(θ)=g(θθu), gv(θ)=g(θθv), gw(θ)=g(θθw),g(\theta)= \begin{cases} 1,& |\theta|<\pi/3,\\ 0,& \text{それ以外}. \end{cases} \qquad g_u(\theta)=g(\theta-\theta_u),\ g_v(\theta)=g(\theta-\theta_v),\ g_w(\theta)=g(\theta-\theta_w),

  • 三相平衡電流(時間高調波なし):

iu=cosωt,iv=cos ⁣(ωt2π3),iw=cos ⁣(ωt4π3).

この前提の場合、ステータの起磁力(MMF)はこうなる。

  F(θ,t)=iu(t)gu(θ)+iv(t)gv(θ)+iw(t)gw(θ)

注意されたいのが、時間高調波はないが空間高調波はある、という点。巻線関数が正弦波ではないので。これを可視化したのが以下。空間FFTの1~3次の結果ものせている。

コードはこちらに。

GitHub - yshimizu12/mmf_visualization: mmf_visualization
mmf_visualization. Contribute to yshimizu12/mmf_visualization development by creating an account on GitHub.

なぜ2極/4極で逆回転するか?

そもそも同期モータは、ステータ回転磁界とロータが同期して回転する。その同期対象は、ロータの極数が2(N,S)ならステータ起磁力の基本波(動画の緑破線)、極数が4(N,S,N,S)ならステータ起磁力の2次高調波(動画の赤破線)である。これは、同じ周波数成分でなければ、トルクの1周分の平均が0になるからである。

動画を見ると、ステータ起磁力の2次高調波は基本波に対して逆方向、かつ、半分のスピードで回転する。これが、2極/4極のロータが逆回転する理由である。同期対象がそうなっているから、ということだ。

ちなみにステータ起磁力の3次高調波は存在しない。そのため、6極のロータはそもそも回転しない。直感的には、例えば60-180°区間など、空間3次に相当する一周区間でMMFは一定値を取り、そもそも3次高調波として現れる成分が存在しない(3次高調波成分に直交する)。これは3n次高調波にも言えることなので、6n極のロータではトルクが発生しない。

なぜステータ起磁力の1,2次成分は逆方向に進むのか?

これを理解するのがなかなか難しい。FFTしたらそうなったから、と言ってしまえばそれで終わり。

一応私はωのワルツ的に理解している。

数学ガール
結城浩『数学ガール』(数学ガールシリーズ1)

まず、ステータの巻線分布を複素数平面で捉える。3スロの相中心は機械角で 0,120,2400^\circ,120^\circ,240^\circ
ここで、1の3乗根 ω=ej2π3\displaystyle \omega=e^{j\frac{2\pi}{3}} を使うと、空間内のuvw相巻線は以下のベクトルと等価。

  [1, ω, ω2]  

この場合の起磁力は、以下に比例する。(このベクトルは、各相巻線の空間分布全体ではない)

  Fiu1+ivω+iwω2

そして、巻線ベクトルを、電気角(ロータ側からの視点)で捉える。ロータの極対数を pp とすると、機械角を電気角に変換することは、各相の位相を pp 倍するのと等価なので、空間内のuvw相巻線は

  [1, ωp, ω2p]  \boxed{\;[\,1,\ \omega^p,\ \omega^{2p}\,]\;}

のように捉えられる。(ωej2πp3\displaystyle \omega=e^{j\frac{2\pi}{3}}となっただけ。)

極数を変えていくと、このベクトルは以下のふるまいをする。

[1, ωp, ω2p] ={[1, ω, ω2],p1(mod3)   (正相=順方向),[1, ω2, ω],p2(mod3)   (逆相=逆方向),[1, 1, 1],p0(mod3)          (ゼロ=回らない).[\,1,\ \omega^p,\ \omega^{2p}\,]\ = \begin{cases} [\,1,\ \omega,\ \omega^2\,], & p\equiv 1\pmod{3}\ \ \ (\textbf{正相=順方向}),\\[4pt] [\,1,\ \omega^2,\ \omega\,], & p\equiv 2\pmod{3}\ \ \ (\textbf{逆相=逆方向}),\\[4pt] [\,1,\ 1,\ 1\,], & p\equiv 0\pmod{3}\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (\textbf{ゼロ=回らない}). \end{cases}

2極ならu→v→w、4極ならu→w→vの順番なので、逆回転。6極の[1,1,1]は零相を意味し、三相平衡では、以下のように同期成分が打ち消される。iu+iv+iw=0iu1+iv1+iw1=0i_u+i_v+i_w=0 \quad\Rightarrow\quad i_u\cdot1+i_v\cdot1+i_w\cdot1=0

このアイデアのよいところは、多相多極多スロにも拡張性がある点。多相はそのままベクトルの数を増やせばよい。多スロは分数スロットのときが少しややこしいが、電気角1周期あたりのスロット数Lを考えると、Lが3の倍数なら回るし、そうでないなら回らない。回転方向は多スロでも(時間高調波を無視した場合) pp のmod 3で求まる。Lの具体的な定義は以下の通り。

L=Sgcd(S,  p)\boxed{\,L=\frac{S}{\gcd(S,\;p)}\,}

ここで、S:スロット数、pp:極対数、gcd\gcd:最大公約数。最大公約数を使う理由について補足すると、まず1スロットあたりの電気角は以下の通り。

Δθe=2πS×p

今求めたいのは、電気角でちょうど1周期(2π2\pi)に一致するようなスロット数 nnなので、

nΔθe=2πnp=S.n\,\Delta\theta_e=2\pi\ell\quad\Longleftrightarrow\quad n\,p=\ell\,S.このとき、最小の正の整数 nn を求めると、

n=Sgcd(S,p)

となり、これがそのまま電気角1周期あたりのスロット数 LL

数学的には理解できるが、物理現象からはかけ離れてしまうのが難点。もっといい捉え方があったら教えてほしい。

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